2010年2月26日金曜日

生物多様性保全、現場へのまなざし

ブログをいろいろ眺めていたら、以下の農業情報研究所(WAPIC)の記事に目がとまった。

 熱帯地域で食料を確保し、熱帯林の生物多様性を守るのは小規模家族農業 米国の新研究

タイトルだけ見て、「なんでこんな当たり前のことを?」という疑問がわいたのである。記事を読んで、「大量の食料を生産する一方で世界に残る熱帯林の生物多様性を保全する最善の方法は大規模な工業的農業」というのが多くの生態学者の通念である、ということを初めて知った。そうだったのか。

この考え方は、人間が自然を制御できる、近代科学技術を使って適切に管理すれば実現可能、という信念に基づいた発想だろう。

この「通念」に欠けているのは、熱帯地域、熱帯林地域で生活をしている人々がいる、という単純な事実である。

しかし、スラウェシの農村を歩いていると、何らかの理由で、処女地へ移り住み、粗放的で土地の肥沃度を収奪するような農法で食料を生産し、そこでの食料生産が増える人口を支えられなくなると、その人口の一部がさらに処女地を求めて他へ移動する、という形での小規模家族農業を目にする。

実は海の場合も同じで、魚が獲れなくなると、さらに魚が獲れるところを求めて、漁民はますます遠くへ船を出していくのである。

たとえ小規模であっても、現場での営みが粗放的かつ収奪的で移動を伴うものであり続ければ、資源の持続性は担保できない。彼らが放棄した土地や海が、自然回復力を持つ程度の収奪であれば持続性を確保できるだろうが、そこでの活動が自給的ではなく商業的な色彩を強めれば、自然回復力が発揮できる限界を超えて、資源は収奪されることだろう。

自分の住んでいる土地で自分たちの生活が成り立つだけの食料生産を適度に行うには、農業や漁業の移動性を抑制し、その場所で持続的に資源を皆で管理していかなければなるまい。その意味で、たとえば、農業では水田耕作などの定着農業、漁業では海藻栽培や養殖に注目していくことが必要になる。

ミシガン大学の研究者が、生物多様性保全の観点から、熱帯地域の小規模家族農業の役割について注目したことは評価できる。先進国側は、生物多様性保全の議論をする際に、その現場に生活する人々へのまなざしを持って、もっと現実的な議論をすべきである。

しかし、上で指摘したように、現場で生活する人々へのまなざしだけでは不十分なのである。粗放的・収奪的な農業・漁業は、先進国資本による大規模工業的農漁業のみで起こるのではない。人口圧に絡む世界中の現場で生活する無数の人々によっても起こるのである。だからこそ、現場に寄り添い、現場の無数の生活者の現実と向き合いながら、生物多様性保全と食料生産の両立を一つずつ図っていくしかないのである。

それは、現場の生活者の責任と自立発展性のみに帰せられる問題ではない。我々が現場の生活者を尊重し、彼らと一緒になって、一つずつ課題克服へ向けて、丁寧に解決を図っていくべき性格の問題であると考える。

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