このワルンには誰もいなかった。柱に掛けられたラジオから番組が流れているのみ。どうやら、小屋の主は下の畑に出かけている様子。真昼間のこんな時間にお客など普通は来ないのだろう。われわれは、彼らからすると非常識な時間に来てしまった、ということなのか。
大したものはなさそうだったが、ぶら下がっている小口分けしたシャンプーの左隣に、小さいポリ袋に入って小口分けされた奇妙なものを見つけた。これは何だ?
きっとこれは、岩塩とか料理に使うものではないか、と思って、同行したゴロンタロの友人に尋ねた。すると、彼女はポリ袋に鼻を当ててクンクン嗅ぎ出した。そして彼女いわく、これは儀式で呪い師が使う道具である、とのこと。写真左からアラマ・モヌ(火をつけて香りを出す石)、タワス(重曹)、アラマ・トゥル(火をつけて煙を出す石)3種類、である。
そして、「この煙が向かった方角に向かえば、いなくなった牛を見つけることができる」などと呪い師が言うのである。こうした「道具」は、呪い師が持ってくるのではなく、人々があらかじめ常備しておき、呪い師を呼んだときに、すぐに儀式を始められるようにしているようだ。
いなくなった牛の居場所だけでなく、様々な祈りの儀式や先祖を弔う場合などにも、これらの道具を使う。お祝いのときには、シナモンや砂糖も合わせて、香りを高めるようである。
それにしても、呪いの小道具が小口に分けられ、シャンプーと同じように「売られている」というのも、なかなか興味深い。すなわち、伝統的な、おそらくイスラーム流入以前から続いているであろう、ゴロンタロの人々にとっての基層文化もまた、商業化の波を避けることはできない、というべきではないか。
ほかにも、たとえば、マラリアの薬を見つけた。この辺は、決して、マラリア汚染地域ではないと思うのだが。
棚の上には、散髪用のハサミが。床屋もやるのだろうか。
そして、小屋の端っこには太い木の板が置かれていた。枕だろう。
普段なら、確実に見過ごすであろう、一見何の変哲もない無人のワルンで、いろいろなものを見つけて興奮してしまった。そして、我々が出発するまでに、ワルンの主は現れず、柱に掛けられたラジオだけがけだるい音楽を流していた。
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