2009年3月22日日曜日

実に静かな選挙の季節

今年2009年のインドネシアは総選挙・大統領選挙の年。1987年、1992年、1997年、1999年、2004年とインドネシアの選挙の年の多くを現地で過ごし、選挙のプロセスをこれまで何度も見てきたが、そこには、うまく言葉で言い表せないが、選挙の年という独特のなんとも言えない雰囲気があった。それは、道路を我が物顔で走り回るバイクや自動車のラリーであり、政党を示す1・2・3といった番号であり、政府与党ゴルカル党が何%獲得して勝利するか、といったものが含まれていた。

だが、今回の2009年、選挙運動もたけなわというのに、それらが感じられないのである。バイクや自動車のラリーは原則禁止、選挙運動は決められた広場に限る、政党は指で示せる以上の40近い数。新聞などで「投票は4月9日」と訴えているものの、「そういえば選挙だってねえ」というような雰囲気がちまたにある。

政府職員はかつてスハルト時代には、与党ゴルカルに動員されたため、選挙になると毎日のように大挙して選挙運動へ出かけて行ったものだが、今は、政府職員も支持政党自由なので、ゴルカル党が動員をかけることもなく、毎日通常通りの業務が行われている。選挙運動に出向く場合には、休暇を取らなければならないのである。これは大統領も副大統領も閣僚も同様である。ちなみに、正副大統領は金曜日に休みを取り、金・土・日を選挙運動に費やしている。

この週末、金~土曜に副大統領がゴルカル党党首として、土~日曜に大統領が民主党最高幹部として、マカッサルを訪れ、前者はカレボシ広場で、後者はマットアンギン・サッカー場で、選挙運動を行った。ところが、ゴルカル党は10万人を動員する予定だったが、新聞報道では8000人程度しか集まらなかったらしい。でも、数日前に大火事に見舞われたマッチーニ地区の住民には、救援食糧とともに、ゴルカル党のTシャツが大量に配られていた。

マカッサルの通りという通りは、選挙候補者のポスターや立て看板で覆い尽くされている。ポスター、立て看板、ステッカー、Tシャツなどの業者はとても景気がよさそうだ。でも、その乱立ぶりは、必ずしも選挙の盛り上がりを示してはいない。むしろ、普通の人々から乖離したところで特定の人々が騒いでいるような印象さえ受ける。インドネシアの民主化は、必ずしも、普通の人々と政治家の心理的距離を縮めたとは言えないのではないだろうか。

我が家に出入りしている若者たちの多くは棄権する様子である。私の運転手も今回は棄権すると言った。選挙直前に地元出身の国会議員が収賄の現行犯で汚職撲滅委員会に逮捕され、他の議員の関与も口に出されているが、当の国会議員の選挙ポスターはマカッサル中に貼られたままで、本人も立候補を辞退する気はさらさらない様子である。こうした国会議員らの態度を、みんな見ているのである。

おそらく、今年の選挙は、4月の議会議員選挙も7月の大統領選挙も、政治エリート・レベルでの週刊誌ネタ的な出来事が起こるにしても、大きな混乱もなく、静かに終わるのではないか。それほど、私の周りの人々の関心は低い。政治家や政治自体に対する強い不信感を払拭するのは容易ではない。

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