2008年10月12日日曜日

スラウェシの生物多様性

この1週間、けっこういろいろあった。何といっても、急に思い立って、10月8~9日にジャカルタへ出張してしまったのが大きかった。マカッサルに戻った後、京都大学とハサヌディン大学の合同開催によるスラウェシ地域研究のシンポジウムで発表したが、1日中、冷房の利いた部屋にいたため、途端に体調を崩してしまった。日頃、エアコンを使わない生活をしていることもあるのだが・・・。

ジャカルタに出張に行った一つの理由は、生物多様性の観点から、インドネシアにおけるスラウェシ島はどれぐらい重要な場所なのか、という問いに答える情報を少しでも取りたかったためである。

たとえば、スラウェシ島の哺乳類127種のうち79種が固有種で、哺乳類からコウモリを除くと固有種の比率が実に98%になる。言ってみれば、スラウェシ島に生息する哺乳類の大半は、スラウェシ島にしかいない固有種、である。

また、インドネシアに生息する鳥類のうち、固有種は全体の23.3%にあたる372種であるが、その固有種のうち、117種はスラウェシ島に生息する。島別に見た固有種の数では、このスラウェシ島が最も多く、マルク諸島の94種、ヌサトゥンガラ諸島の68種が続く。鳥類でも、スラウェシ島はインドネシアで最も多くの固有種のいる島なのである。

わずかなデータしか集められなかったが、スラウェシ島はスラウェシ島にしかいない固有種の多い島であり、生物多様性の観点からみても、相当に重要な場所であると思われる。

スラウェシ島は、大昔、大陸地動説に乗って、北、西、南などから陸地が動いてきてくっついたため、アルファベットのKのような奇妙な形をした島になった、と言われている。その結果、中央部が急峻な山地となり、それが遮る形で、スラウェシ島の各部にある生物群の固有性が保たれたとともに、長い間に緩やかにそれらが融合して、特有の生物の種を生み出してきた、と推論できる。

しかし、こうしたスラウェシ島の固有種の生息・分布状況について、継続的な調査が行われている気配はない。バビルサ(牙の長いイノシシ)、アノア(牛と馬の中間のような動物)、マレオ(飛べない鳥)、タルシウス(小さなメガネザル)などが過去10年に生息数がどれだけ増減し、生息区域がどう変わったのか、よくわかっていない。ただよくいわれるのは、こうした固有種の生息数が徐々に減り、ほとんど人前から姿を消しつつある、ということである。

残念ながら、スラウェシの地元の人々は、こうした世界中でスラウェシにしかいない生物たちにほとんど関心がなく、また知識もあまり持っていない様子である。生活がかかっている人々にとっては、単なる害獣にすぎないのかもしれない。こうした生物多様性の観点も、人々の暮らしをどのように向上させていくのかという課題のなかにうまく関連付けて考えていく必要があるのではないか。

それはそうと、生物多様性の宝庫とでもいうべきインドネシアで、こうした生物の標本を地道に管理する施設が日本のODAで建設・運営されている。ジャカルタから車で1時間弱のチビノンにある国立生物研究センター(Research Center for Biology, LIPI)がそこである。ここでは標本を管理するだけでなく、それをもとにした生物多様性保全のための研究機能の向上が図られている。先にインドネシアを訪れた秋篠宮殿下がご覧になったというシーラカンスのはく製を見せてもらった(下写真。もう1体のはく製は発見された北スラウェシ州マナドにあり、それが日本の福島県のアクアマリンふくしまで解剖された)。


ここに収蔵されている標本の多くは、植民地時代にオランダが集めたもので、残念ながら、独立後にインドネシア政府が集めた標本はあまり多くないそうである。予算不足なのだろうか。

現在、これらの標本は空調をコントロールされた膨大なスペースにきちんと保管されている。これからずっと、いい状態で保存されていくことを願う。

貧困住民の所得向上を図るための支援も必要だろうが、こうした、世界中の人類のための共有財産とでもいうべき生物標本を地道に収集・管理し、それを生物多様性保全のための研究に生かしていくことへ支援していくことも、とても重要なことではないかと考える。すぐには結果は出ないし、インドネシア政府や住民に目に見える形でアピールできる性格のものでもない。でも、こうした標本の中から、今後の世界的な問題を解決する何かが見つかるかもしれない。

折しも、今回、日本の研究者が受賞したノーベル賞は、その目立たないが極めて重要な基礎研究に対する評価であった。生物多様性保全の基礎研究を促し、それを地球全体の共有財産として生かしていけるような長期的な活動へ支援を行うことにも、大いなる意義があると言えないだろうか。

そして、こうした生物研究センターへの生物多様性保全の観点に立った支援を行うということは、日本がインドネシアとともに世界へ貢献する、ということになるはずである。今や、そういう支援を進めていく時代になったのではないだろうか。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

昨日夜、偶々NHKテレビ番組で「ダーウィンが来た」を見ました。インドネシア・スラウェシ島のジャングルに暮らす、スラウェシメガネザルについて紹介されていました。島の生成過程まで詳しく画像で解説していました。本当に貴重なドキュメントと思いました。NHKさんにはもっと、スラウェシの事取り上げて欲しいと思います。

下記はNHKのサイトです。

http://www.nhk.or.jp/darwin/program/program120.html