2008年8月12日火曜日

トラジャ・サダンの布

トラジャに出かけ、サダンで布を見た。サダンにはこれまで何度か行ったことがあるが、いい思い出があまりない。サダンの特有の布を持ちながら、とにかく買ってくれのオンパレード。外国人だからわからないだろうと、ジャワのバティックや東ヌサトゥンガラのイカット(絣)を並べて売る節操のなさ。とにかく、売れて金が入ればいいのだ、という雰囲気があり、好きになれなかったのである。今回もそれを覚悟して行った。

でも、少しゆっくりと、サダンのオリジナルの布は何かを聞いてみることにした。それが今回は結構面白かった。


左の布はパ・マタ・パ(Pa'mata pa)という布で、織り目が目(mata)のような形になるのでその名があるという。一方、右の布はパ・ランバ(Pa'ramba)という名の布で、一色以上の様々な色で織った布である。パ・ランバは、最近では、輸入綿を使い、化学染料で色鮮やかに織る傾向が強いそうである。


上の写真では、左の色の薄いのが、地場の綿で糸を紡いで作り、自然染料で染めたパ・ランバ。右が、綿糸をよそから買ってきて、化学染料で染めて織ったパ・ランバである。左のほうがごわごわっとした手触りで、厚手である。トラジャで売られているパ・ランバはほぼすべてが右のものになっている。


もう一つの織布は、パ・タラディシ(Pa'tradisi)と呼ばれる伝統織である(上写真)。これは両面織になっており、通常のパ・ランバなどが5つの道具を使って織るのに対して、このパ・タラディシは12個の道具を使って織るそうである。もちろん、手間ひまがかかる分、値段もぐっと上がる。



上写真は、織物ではなく、手書きで書いたものである。書かれているのは「人生の木」(Pohon Kehidupan)、トラジャの人々の生命観を表したものである。木は富める者を表し、木にくっついている鳥は貧しき者で、富める者に寄生する。水牛はこの世と天国とを媒介する。

最近はこの「人生の木」の描かれた布をトラジャで多く目にするようになったが、このサダンで見たものは、一味違う。なぜなら、この布は、今や途絶えてしまったパイナップル繊維で織られているからだ。ここでのパイナップルは、食用のものとは違う繊維用のポンダン・ダトゥ(pondan datu)と呼ばれる種類のものである(下写真)。


この「人生の木」の描かれた布は、昔、この店の女性の祖母が織ったといわれているもので、100年近く前のものという。サダンの集落ではただ一つ残されたもので、同様のものがジャカルタの国立博物館に展示されているという話だ。

「人生の木」を紹介した女性は、買いたい人がいたらそれを売って、子供の学費を捻出したい、という。背に腹は代えられない、厳しい状況なのだろう。しかし、どうか売らないでほしい、ここにミニ博物館のようなものを作ってそれを展示し、観に来た人からお金を取るようにしたほうがいい、と懇願してみた。もちろん、次回、サダンを訪れたときに、その「人生の木」がまだ残っている保証はない。でも、もしかしたら、という気持ちを持ち続けてみたいのである。

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

初コメントです。予備知識もなくスラウェシ島に行き、7月にタナ・トラジャに1カ月滞在しました。その後このサイトを発見し、愛読させていただいています。
インドネシア語が話せないので、サダンでは布を遠巻きに眺めるだけで、ほとんど言葉からの情報が得られなかったのが残念でなりません。参考にさせていただきます。
サダンには私も同様に少し失望した思いがあります。布を見たくても、どのように振舞っていいのかよく分からず、じっくり見られませんでした。
サダンだけでなく、タナ・トラジャの観光のやり方(お金を得る方法)は、日本人的には違和感がありがっかりすることもありました。バリに継ぐ観光地と目され観光に依存しようとするのがよく分かりましたが、もう少し違うやり方はないものか、考えさせられてしまいました。
それだけトラジャ/スラウェシが魅力的だからこそ思うことです。また行きたいと思っています。

Unknown さんのコメント...

natsさま
コメントをありがとうございます。私は今、仕事の関係でマカッサルに住んでおり、スラウェシ島をベースに動いています。トラジャ観光については、考えるべき点が多々ありますね。
 natsさんのブログも拝見しました。いずれコメントも書かせていただきます。これからも本ブログをよろしくご愛読ください。

匿名 さんのコメント...

パイナップル繊維の話は初めて知りました。UNIDOが今年5月に東京で「バナナ繊維」のセミナーを開催したので、聞いてきました。南国の果物繊維で村おこしできたら良いですね。